

「立体アニメーション」表現には,実在するが「動くはずもない物体が動く」根源的な映像としてのパワーがあります。それは映画技術の発明を待っていたかのようにstop-motion animation(コマ撮り)技術を駆使した映像作品として生み出され,ヨーロッパを皮切りに世界各国のクラフト文化を背景に作り続けられてきました。
「物体」とはある時は人形,ある時はひとひねりの粘土,石,紙,造形物,肉塊,人間,さらには街や雲,月や地球までもがその対象であり,時間軸や光と陰影による表情がついた時,「作品」という名の作家に演出された「生命(anima)」を宿すのです。
本領域では,その表現=animationの,「物が動く」ことの根源的な効果を基本に踏まえて,物語性も含めた「作品」としてのあらゆる可能性を,実制作を通して検証・探求していきます。
また,立体アニメーション制作に欠く事の出来ない「二方向の技術」,すなわち「撮影・映写」と「被写体造形周辺」に関わる技術を重視し,現実的にはデジタル撮影機器,PC環境を駆使しての「撮影・ポストプロダクション」を,「被写体造形」に関しては主に人形制作などアナログ技術の深さをそれぞれに尊重しつつ,実際の作品に役立つhow toを研究,開拓していきます。さらには多様化する「computer graphics(2D / 3D)」表現や「デジタル合成」技術による「技法の混在」にも積極的に取り組み,「進化するアニメーション表現」の最先端を共に力強く切り開いて行きましょう。
自然物や紙を媒体にした表現から,幻燈や映画などという空間共有型メディアなど,アニメーションは,メディアの発展とともに,新しい表現を開拓してきました。特に日本においては,「テレビ」メディアが非常にユニークな役割を果たし,内容はもちろん,制作体制や産業構造にまで影響を及ぼしてきました。
現在,テレビのみならず,書籍(マンガ),ゲーム,ケータイ,映画,パッケージメディアなどのさまざまなメディアをごく普通の国民が使いこなすという,国民ひとりひとりが豊かなメディア体験を持つ日本において,アニメーションは,有機的に組み合わされたメディアに提供されるコンテンツとして,世界の中でも類を見ない発展を遂げています。 このような日本のアニメーションについて,一部の内容や表現のみをその特色として捉えるのではなく,歴史やテクノロジー,そしてメディア,それを享受する国民まで含めた全体像とその体系化を行うことが,国際的にも,また次世代への継承と発展のためにも必要とされています。
そして今,そのポテンシャリティについて未知数ともいえる「インターネット」が加わり,また一方で,表現を支えるテクノロジーが急速な進化を遂げている今日,これまでのアニメーション体系はどう変わっていくのか,そのビジョンを,さまざまなメディアやテクノロジーを駆使したケーススタディを通して探って行きたいと思っています。
このビジョンこそは,作家やプロデューサー,アニメーション産業関係者など,全ての人々がそれぞれの立場で持たなければならないものであり,そのことが日本のアニメーションの更なる発展につながっていくものと考えます。そのために,教育・研究機関の新しい形として,「人的ネットワーク」ひいては,アニメーション界育成のための新しい「プラットフォームづくり」に取り組んでいきたいと思います。
アニメーションに対する関心は,昨今随分高まってきましたが,実際はポップ・カルチャーやビジネスとしての側面ばかりに目がいき,アニメーションの本質を見据えることを困難にしている気がしてなりません。目に見えない精神や感性を,時間軸を使って可視化できるアニメーションは,音楽と並んで,人間の根源的な表現の媒体としてその芸術性や文化的意義にもっと理解を得られるべきでしょう。そういう意味で今は,創作,研究,評論すべてにおいて発展途上にあると思います。
「可視化の欲望」としてのアニメーションの芽は,紀元前まで遡ることができます。そして「映画」としてのアニメーションの歴史は,100年ほどの若い芸術です。アニメーションを成立させるには,芸術と産業の幸福な両立が望ましいのですが,時として相容れない場合もあり,その多義性のためか,現状のアニメーションに対する認識のぶれの大きさにしばしば戸惑わされます。
私は,1コマごとに「動き」を創造した映像すべてが,「アニメーション」であると定義しています。アニメーションのコマとコマの間には,現実の時間は流れていません。1枚1枚の絵は,時間的,空間的繋がりがない独立した「断片」です。1コマごとに蘇生を繰り返すその「断片」の集積に「流れ」を感じるのは,作る側と見る側の想像力の関与が大きいのです。そしてその無の瞬間に「精神」が入り込むのです。現実から逸脱した,映像だけの「時空間の創造」,これが「アニメーション」です。このシンプルなシステムには,常に映像の原始的な力が潜んでいます。そしてその創作には,イマジネーションの力が必要であり,またそれが発揮されるメディアでもあります。
精神の「軌跡」を記録できるアニメーションの可能性は,まだまだ計り知れないものが潜んでいて,その鍵を開ける方法は,幾通りもあると信じています。広い視野と見通しをもって,創造の秘密を共に探っていきたいと思います。