東京芸術大学大学院映像研究科
GEIDAI#4
東京藝術大学大学院 映像研究科 映画専攻第4期生・アニメーション専攻第1期生 修了作品展

映画専攻第4期生全修了作品 GEIDAI-CINEMA #4

目の前に2010年の過酷な現実があり、背後からは鉄壁の映画史が責めたて、上には観客というもやもやした圧力、足元には自分自身という底なしの黒い穴……そんな息詰まる緊張の中で、どこに属することも拒否した驚くべき不機嫌な映画が5本、いっせいに誕生した。しかも、この5本は決して孤独ではない。各々が各々に対して開かれ、連帯を求めて盛んに触手を伸ばしあっている。何かものすごいことが始まる前触れのようだ。
黒沢清(映画監督)

海への扉

海への扉

2010/HD/16:9/カラー/70分

cage

cage

2010/HD/16:9/カラー/61分

テト

テト

2010/HD/16:9/カラー/104分

浮雲

浮雲

2010/16ミリ/4:3/カラー/55分

真夜中の羊

真夜中の羊

2010/HD/16:9/カラー/73分

海への扉

2010/HD/16:9/カラー/70分

監督・脚本:大橋礼子 制作:名倉愛 撮影監督:安部雅行 録音・整音:宮城則仁
美術:松尾博美 編集:後河大貴 助監督:川口力 楽曲提供:toe
出演:兼子舜、富田理生、大浦龍宇一、洞口依子、ガダルカナル・タカ、千浦僚

女子学生が投げた紙飛行機がお目当の偽大学生に届かず、考古学の准教授が拾ったことにはじまるクラシックな三角関係のドラマである。いまどきになぜと思われるメロドラマへの挑戦なのだが、細部のアイデアが生き、理屈抜きの愛の世界の構築に成功している。大橋礼子は、恋愛とは地に足が着かぬ者同士の行為だと信じている。これは比喩ではない。偽大学生のケンは仕事の新聞配達を当然、自転車で廻っている。女子学生のハルが大教室の机の上を跳ね上がりながら駆けるのもその故だ。足が地面より数センチでも浮いていることが恋愛の条件なのである。ここでの求愛の儀式を見よ。かくして、女は自転車の男と自動車の男の間に挟まれる。主役トリオの葛藤も見ごたえ充分だが、洞口依子の突飛な母親や、うだつのあがらない新聞配達の先輩など周りの登場人物の隅々まで愛が感じられるのが好ましい。そうした描写の積み重ねが、後半の痛ましさを生むのである。

cage

2010/HD/16:9/カラー/61分

監督:栗本慎介 制作:小川大樹 撮影監督:白浜哲 助監督:市原悠
録音・MA:鳥越惣太 美術:川西那奈 編集:若林龍 脚本:栗本慎介、島村隆
音楽:theygroup 出演:中丸新将、大谷英子、内田雅樹、玉城タイシ、比嘉玲子

市役所の生真面目な公務員元宮が犯罪の臭いを嗅ぎ取り、妄想と紙一重の危うさで、女性を守ろうと素人探偵を演じはじめる。まず冒頭が素晴らしい。森の木々をなめるキャメラが重ねられるうちに、アイリス画面になり、バードウォチングの公務員の視点へと導かれる。ここで、覗き見るという主題が提示され、やがて婚姻届を出しにきた女性を監視するため、隣のマンションの屋上へと登るのである。そこから覗かれる彼女の部屋が何とも鳥籠のようであり、電話でのやり取りとあいまって、倒錯的な距離の意識にどきどきさせられる。寝たきりの実の娘の身代わりのような擬似的な父娘関係が進行していく。アメリカ映画というより、フランス製ノワールに近しい感触は、栗本慎介の持ち味なのだろう。濃密なサスペンスに酔わされる一篇である。

テト

2010/HD/16:9/カラー/104分

監督・脚本:後閑広 製作:柄本かのこ 助監督:森内康博 撮影:白浜哲
照明:菊池のどか 美術:濱瀬乃理子 装飾・CG:有吉信寛 録音・MA:中島智也
編集:真下雅敏 音楽:CARRE 出演:阿部翔平、安藤サクラ、裵・ジョンミョン、
モロ師岡、史朗、安達俊信、松岡大、渡辺幸作、山崎雄太

東京湾に浮かぶ落下傘。国の諜報員訓練生テトが落下地点の計測に失敗したのだ。テトは水を含み重い落下傘を引きずり、泥濘を進む。一方、鬱屈を抱えた女子高生ハト子は、傷だらけの猫の飛び降り自殺を目撃する。親なしで育ったテトは、孤児出身の劇団に潜入するミッションを与えられるが、ここら辺から、映画は曖昧な時空を漂いだし、自己の不確定性に直面するテトは、まるでスパイ映画から時代劇まで、さまざまなジャンル映画を漂流する試練を与えられているかのようだ。これは、後閑広による現代への批評でもあるのだろう。猫の落下の鮮烈さしかり、終盤のコインランドリーのガラスに映る白馬のイメージの衝撃しかり。そんななか、テトが拾った古い地球儀が狂言回しのように、運命を暗示する。それでも、テトとハト子に託される未来が安直なハッピーエンドでないだけに、より感動的だ。阿部翔平、安藤サクラの好演も光る。

浮雲

2010/16ミリ/4:3/カラー/55分

監督:長谷部大輔 プロデューサー:江口友起 撮影監督:浅見貴宏
助監督:関力男 音:青木瑠生 美術:難波和之 編集:橋本良平
出演:梶田豊土、松元夢子、野村喜和夫、淡島小鞠、ほたる
愛葉るび、岡部尚、西本竜樹、工藤和馬

タイトルに騙されてはいけない。これは徹底してダークな大人の童話である。クモスケという何を考えているかさっぱり判らない男が主人公なのだが、この徹底的な虚無性がピンク映画的変態家族ものに融合し、とんでもない畸形性を帯びてゆく。ぬけぬけと挿入される浮雲が、クモスケの浮遊性を象徴しているのかもしれない。クモスケは結婚した元カノの家に転がり込むのだが、そこには寝たきりの妹がいて、夫は連続婦女殺人の容疑者そっくりの風貌なのである。クモスケが買った片目の売春婦が妹の中学の後輩だと知れ、二人はクモスケの眼前で妖しい遊戯へとふけっていく。中学の歴史の授業の記憶が鎧武者のイマージュを呼び寄せる描写が圧巻である。この畸形性は長谷部大輔の人間の裏面への探求とその形象化への情熱から来ているが、これだけの個性が今後どのように伸びていくか、目が離せない。

真夜中の羊

2010/HD/16:9/カラー/73分

監督・脚本:ヤング ポール 製作:李桓美 撮影:和野花
録音:鳥越惣太 美術:金子弘明 編集:後河大貴 音楽:網守将平
出演:岡部尚、宮本りえ、山田キヌヲ、松浦祐也、吉岡睦雄
本城丸裕、綾田俊樹、なかみつせいじ

日常を描いた青春ドラマのように始まるが、町への隕石の落下をきっかけに、不気味な影が主人公を覆ってゆく。ジャンルとしては、SFホラーになるのだろうが、印象としては、爽やかさが強く、その二重性が独特である。一見ぶっきらぼうだが、実は緻密な演出なのだ。不動産屋、雑貨屋、とりわけ空き家といった室内空間から、商店街から森へと拡がる野外へと、時折挟まれる動物のインサートを含め、地方都市の表情が交響楽のように展開される。瞬間移動を繰り返すような編集のリズムが素晴らしい。同時に、ヤングポールは役者の魅力を引き出すことに長けた監督でもある。不動産屋に勤務する青年慎二を演じる岡部尚が人生の不条理に接したときの戸惑いを見事に体現する。空き家になった彼の家にいきなり登場する姉の宮本りえの不思議な透明感も特筆に価する。とりわけ終盤、羊の群れに囲まれた異世界の主のような存在ぶりはどうだろう。必見の一作というほかない。

作品解説=筒井武文(映画監督)

アニメーション専攻第1期生全修了作品 GEIDAI ANIMATION 01+

2008年4月、東京藝術大学大学院映像研究科に新しく設置されたアニメーション専攻第1期生による短編群。修士課程の2年間、アニメーションとは何か、芸術におけるアニメーションの位置づけ、アニメーションである必然性、などアニメーションで表現することの意味を問うてきました。ひとりひとりが独自の世界を追求したアニメーション創造の軌跡を見ていただき、日本のアニメーションの将来を感じていただければと思います。

上映作品(HD|計90分)

安西奈々『四ッ谷いろは』、石井寿和『賢者の贈り物』、大見明子『収集家の散歩』、北村愛子『服を着るまで』、
銀木沙織『指を盗んだ女』、田中美妃『つままれるコマ』、永迫志乃『強迫的な秩序についてのカエル』、野中晶史『CLIMBER』
松井久美『PapA』、三角芳子『Googuri Googuri』、和田淳『わからないブタ』

〈GEIDAI-ANIMATION 01+〉の作品詳細は公式サイトをご覧ください。

『四ッ谷いろは』

『賢者の贈り物』

『収集家の散歩』

『服を着るまで』

『指を盗んだ女』

『つままれるコマ』

『強迫的な秩序についてのカエル』

『CLIMBER』

『PapA』

『Googuri Googri』

『わからないブタ』

主催:東京藝術大学大学院映像研究科

共催:NPO法人映像メディア創造機構

製作協力:財団法人角川文化振興財団

協力:横浜市 ソニー株式会社 株式会社ナムコ