

今日では,たくさんのメディアが混在し,また,日々新たに誕生しています。
そんな激しく変容し続けるメディア環境の中で,どのような考えのもとで,どのような表現を作り出せば,新しくかつ普遍的なコミュニケーションが生まれるか,ということを研究するのが,この「メディアデザイン領域」です。
表現において,作り手の「感性」の果たす役割が大きいのは言うまでもありません。従来の表現系の大学では,それを重視してきましたし,実際多くの作家も育っていきました。しかし,この新しい映像研究科で,私がやろうとしていることは,感性だけに頼るのではなく,自然科学や情報科学の思考形態や知見も重要視し,それらの原理に基づく試行や実験から生まれる表現にも多くの可能性を求める,といった,かなり模索的なことです。それによって,著しく変容し続けるメディア環境をものともしない,普遍性のある(言い換えれば,根源的な)表現を生むことができる,と考えているのです。
質的にも量的にも,メディアが増え続けるにつれ,そこに載せるコンテンツを創りだせる人材を世の中は要求してきました。そして,これからもその傾向は強くなると思われます。その社会の要求に応えるべく,しかも,単なる時間潰しや埋め合わせや迎合ではなく,新しい価値のあるコンテンツを生み出せる人間をここから輩出していきたいと思っています。
まず何が「問題」なのかを一緒に模索できる人,そして「思わぬ解」を一緒に捜しにいきたい人,是非,新しいメディア映像専攻に来てください。そして,従来は表現の世界にはあまりいなかった,数学や物理が好きな,頭が固いと言われるほどの真面目な人も大歓迎します。私も頭が固いです。一緒に,本当の面白さについて考えていきましょう。
一般的に,電子メディア,デジタルメディアを媒体とする芸術のことを「メディアアート」と呼んでいます。しかし,現代のようにメディアが急速に変化する時代には,メディアそのものに意識的に取り組む必要があり,メディアの設計や構築そのものもまた,知的な創造活動と考えられます。もちろん,メディアとは媒体のことであって,その内容ではありませんから,メディアそのものがアートになることはないはずですが,表現者の立場から考えると,どの媒体を選ぶかという選択そのものが表現と深く関わっている問題でもあり,表現に見合う媒体が存在しないのであれば,それを作り出すということも表現者の使命ではないでしょうか。
メディアには,3つの側面があります。道具としてのメディア,伝達のためのメディア,記録のためのメディアといった側面です。そして,情報へたどり着くためのインターフェイスと,情報化へ向けたコードの問題がそこに絡んできます。例えば,作品が作られ,鑑賞され,それが市場へでてゆくというような絵画の世界では,こうした関係性は明示的なものではありませんでした。画廊や額縁をインターフェイスとして解釈する必要性は,そこにはありません。しかし,これに対してメディアアートのインターフェイスは多様であり,その設計そのものさえもが作り手にゆだねられているわけです。また,ネットワークを通したアートのあり方も問われています。それはネットワークの両端にいる,人間同士のインタラクションに,そのインターフェイスが影響を与える可能性があるからです。ここにも新しい芸術表現の可能性が見え隠れしますが,未だに開発が充分に進んでいるとは言い難い分野であります。
こうした背景の中,メディアアート領域では,個人の中にある表現の欲求と,それを実現するメディア技術との出会いを,その研究の対象にしています。さまざまなメディアに果敢に挑戦し,その特性を理解した上で,それを自分の表現の現場に引きつけてゆく力を養って欲しいと考えています。
この領域では,知識情報処理やコンテンツ管理などの新しい技術を利用した映像制作を行っていきます。また機械,空間,ネットワークをメディアとした新しい表現のための環境を開拓します。
この領域に参加する人に求められるのは,人間と人間のコミュニケーションや,人間とコンピュータとの関わり(Human-Computer Interaction)がうまく成立する状況を分析する観察と,それをより良いものにする構築の思考回路をバランスよく持つことです。修士課程では作品の展示とともに,自分が構築したものから得られた知見を論文として発表していきます。
本領域の修了者は,映像産業や情報通信産業において高度なコンテンツを開拓する人材,広くモノやサービスを開発する場で利用者の視点に立ったデザインができる人材として活躍が期待されます。
工学系や情報系で学んだ人はもちろん歓迎ですが,表現系にいて技術に強い関心を持っていた人も,これまでの基礎の上に強い専門性を作るという考え方での参加を期待しています。
インターネットという「共有の場(コモンズ)」は,知的財産の保護を図りつつ,自主連帯的な著作物の流通を促進することを目的とする「クリエイティブ・コモンズ(CC)」の活動をうみだしました。その一方で,ドキュメンタリーやニュースなど,従来の放送や通信などのマスメディアにおける表現形態にも,技術革新に伴う変化の兆しがあります。さらには,技術革新とともに実際に企業やNPO,行政の組織のあり方にも急激な変化が求められています。メディアで表現された知的財産を自主管理するためには,メディア技術を駆使しながらコモンズを作り出す新たな表現力(表現のスキル)がどうしても必要です。そう,この表現力がコモンズにとって生命線なのです。 メディア文化財領域における具体的な研究活動は次のとおりです。
(1)コモンズ研究
メディアの技術とその表現力の開発研究を基礎として,デジタルアーカイヴやIPマルチキャストのあり方を探るとともに,都市計画,地域振興あるいは文化政策を視野に入れた,総合的なコモンズ研究を追究します。
(2)メディアプロジェクトの実践
芸術表現に駆使された技巧や方法論の研究を基礎として,コモンズをもたらすさまざまなメディアプロジェクトを実践しています。
(3)新しいスキームによるメディアリテラシーへのアプローチ
メディア技術と表現力をキーワードに新たなメディアリテラシーのスキームを開発し,実験的なプロジェクトを通じてメディアがもたらす知的財産を共有するスキームを追究しています。
このような探究と実践は,言い換えると,従来の「公・public」(政府・自治体)と「私・private」(企業・個人)という二元論を超えるチャレンジです。メディア文化財領域はこの古くて新しいテーマにチャレンジしています。