つくることの第一歩は、間違いなく、観ることである。現代にとって映画を観ることは社会に参加する最小限の行動と言っていいだろう。芸術活動が人間の生活そのものであるならば、作品の上映や展示や演奏は、そのまま社会と直結した意思疎通の場である。だからこそ、その意味するところはそれぞれの場によって変化するものであり、そこで伝わるものもあれば、伝わらないものもある。また、尖閣諸島沖の事件を記録した映像をめぐる問題を見てもわかるように、近年では映像情報がさまざまな火種のもとになっている。できごとを体験した人たちがそこにいて、それを記録したものを通して議論が展開されてゆく。それは報道という現実を伝えるメディアから、映画というフィクション(嘘)の世界まで連続した構造の上で起こっていることなのだ。
このシリーズでは、映画を楽しむことを第一義としながら、生まれてまだ新しいこのメディアがもつさまざまな側面について、上映を通して体験を共有して行ければと考える。
- 第1回
the Cove
- 日時:
- 12月4日(土)14時半開場 15時開演
- 会場:
- 東京藝術大学上野校地 美術学部中央棟 第一講義室 [アクセス]
2009年のアカデミー賞受賞作であるルイ・シホヨス監督によるドキュメンタリー『ザ・コーヴ』は、2010年日本での上映をめぐって様々な議論を巻き起こした。問題はその内容であるイルカ漁そのものの問題にはじまり、アメリカによる日本パッシングから、しだいに映画の質への批判へと転化し、果ては偽善的な映画上映やシンポジウム開催への批判も飛び出してきた。なぜこの映画が生まれたのか? それは、日本でのイルカ漁を止めさせようとする活動家たちが、自分たちのメッセージを広く届けるために、映画というシステムを利用したということだ。彼らのメッセージについての善悪以前に、またドキュメンタリーとしての正しさ以前に、映画というメディアを使ってメッセージを送るという、その発想そのものがいったいどういうことか、考える必要があるだろう。表現すること、そしてそれを社会に問おうとする者にとって、こうした前提や状況に対して敏感でなくてなんとしよう。まず、対象を「作品」として見るのか、あるいはメッセージとして見るのか、あるいはメディアとして見るのか、これらを相対化させたところで、この映画をあらためて見てみたいと思う。
ともかく、この映画は今年絶対に見ておく必要のある映画なのである。
【2010年7月の日本での上映に際してルイ・シホヨス監督から送られたメッセージ】
『ザ・コーヴ』が日本で賛否両論を巻き起こすことは予想していました。そしてその予想通り、「反日映画であり、日本の文化や伝統を理解していない」と、広く批判され始めています。しかしこの映画は、日本ではまだほとんど見られて いないはずです。実際、日本での上映は昨年の東京国際映画祭の2回のみです。はっきりとは言えませんが、映画を批判している人たちの多くはまだ映画を見ていないのではないでしょうか。単純に、まずはこの映画を観てから判断していただきたいのです。 (http://thecove-2010.com/director/index.htmlから転載)
映画『ザ・コーヴ』オフィシャルホームページ:http://thecove-2010.com