Interview

一本の鉛筆から近未来の都市まで,フィクションの世界を形にしていく映画美術の仕事.完成したフィルムを見るだけでは知り得ない,その多彩な面白さ,真の魅力を,気鋭の美術デザイナーにうがかいました.

01:黒川通利][02:三ツ松けいこ][03:鈴村鏡子

映画美術は面白い

インタビュー02:三ツ松けいこ

みつまつけいこ:1972年千葉県生まれ.日活芸術学院映画美術科で木村威夫氏に師事.黒沢清監督『勝手にしやがれ!』(1995)シリーズのアシスタントから,『Helpless』(青山真治監督,1996)等の小道具を担当.主な美術監督作に『誰も知らない』(是枝裕和監督,2004),『ゆれる』(西川美和監督,2006)がある他,『血と骨』(崔洋一監督,2004)『花よりもなほ』(是枝裕和監督,2006)のセットデザインを手がける.

三ツ松けいこ

CM撮影用のロゴステッカーを切り抜く三ツ松さん

現代日本映画の最前線で活躍する三ツ松さんが,セット制作に興味を抱いたのは,あるCMの撮影にバイトで参加したことがきっかけだった.「プロレスのセットだったんですけど,その観客としてエキストラで出て,そこで働いているスタッフが何してるんだろうってことに興味が湧いて,裏方で働きたいと思ったんです」

まずは脚本ありき

撮影前,脚本を読み込むプロセスは,俳優の役作りにも似ている.「脚本の設定を考えて登場人物の家を造るという時に,その人はどういう人間なのか,どんな家に住んでいるのか,どんな趣味があって,何を食べているのか,などなど考えるんです.役者さんが芝居で何かを書くとなったら筆記具はどんなの,とか.ト書きに出てくる物はもちろん,見えないところを考えて,ふくらませていく.それって結局,小道具でも,装飾でも,美術のセット図面書くときでも,同じだと思うんですよ,考え方はね」同時に,画面に映らない部分も含めて「役者さんが入って,ちゃんと芝居しやすい空間を作る」ことは,美術スタッフの大切な役割であり,興味深いポイントだ.

『花よりもなほ』オープンセット『花よりもなほ』オープンセット

左:元禄時代の貧乏長屋を舞台にした人情時代劇『花よりもなほ』(是枝裕和監督,2006)のオープンセット.斜面の土台が組まれる 右:小道の左右に長屋が建ち始める.崖の下地にはトタンを

江戸時代の長屋をデザイン

是枝裕和監督『花よりもなほ』(2006)では,芝居の流れとストーリー展開の鍵となる江戸時代の長屋の集落をデザイン.坂の角度や広場からの見え方,それぞれの家の間隔や向き,長屋が崩れて傾いて見えるか,といったことを図面で何度も書き直し,実際にセットを建てる場所に合わせて調節し,ディテールを作っていった.「脚本の時代設定や地域,人間性などに合わせて,建物の作りを調べる.屋根の葺き方,壁の素材,木材の種類,植生とか.長屋といっても東京と大阪では違うところがあるので,まずはそれを調べます.調べた上で脚本の都合に合わせたりしてその作品の世界観を考えます」

『花よりもなほ』オープンセット『花よりもなほ』オープンセット

左:画面奥にも建物が並び,前方右には井戸が 右:木や草が植えられ,細部まで作り込まれた完成セット

個性が輝くチームワーク

学生時代,師事していた映画美術の大御所,木村威夫氏には「『映画よりも舞台の美術がしたいんです』って言っていたような気がします.こんなにどっぷり続くとは…」と笑う.10年以上のキャリアを積んだ今,「美術としては頭の中で考えた物を形にするのも面白いし,後は現場に用意したものをどう使ってどう撮ってもらえるかという,演出,撮影,照明,録音,制作等の各部との関係性が緊張感あって刺激があるんです.アングルやライティングによって作った物がすごくかっこよく映ったり,置いていた物を自然と役者さんが使ってくれたり,そういう,他の部との関わりがあって映画が作られている,ということが映画制作のやりがいであり,面白いところなのではと思います.多分,作家だったらたいがい一人でやりますよね」映画作りは「どこをとっても共同作業」.それゆえの多面的な面白さ,人々との関係がもたらす刺激に裏打ちされた三ツ松さんの言葉は,生き生きと情熱的に響いた.