Interview

一本の鉛筆から近未来の都市まで,フィクションの世界を形にしていく映画美術の仕事.完成したフィルムを見るだけでは知り得ない,その多彩な面白さ,真の魅力を,気鋭の美術デザイナーにうがかいました.

01:黒川通利][02:三ツ松けいこ][03:鈴村鏡子

映画美術は面白い

インタビュー03:鈴村鏡子

すずむらきょうこ:1974年東京都生まれ.東京藝術大学大学院中退.手塚眞監督『白痴』(1999)にボランティアスタッフとして参加.美術にたずさわった作品として,是枝裕和監督『ディスタンス』(2001),クエンティン・タランティーノ監督『キル・ビルVol. 1』(2003),李相日監督『フラガール』(2006),土井裕泰監督『涙そうそう』(2006)などがある.

空間演出の視点からセットを描く
鈴村鏡子

撮影所でイメージ画を図面に起こす鈴村さん

仏像研究か,映画作りに関わる仕事か.藝大の学部から大学院に進学後,悩んでいた鈴村さんは,新聞に掲載された手塚眞監督『白痴』(1999)のボランティアスタッフ募集の記事を見て応募.選ばれた15名の一人として,ロケ地新潟で丸太を運んだり,パネルを作ったりと,肉体労働をこなした.「『ああ,美術ってこういうことをやるんだな,こりゃあ体がもたないかもしれない』って思いましたね,最初は」その後,小道具や装飾を経験して美術部へ.「最近はひとつのロケ加工やセット建て込みを任されることも多い」という鈴村さんにとって,台本を読んで,セットのイメージ画を描くのは,特に楽しいプロセスとか.デザイン的な構想はもちろん,「一つセットがあって,例えば二階があって階段を吹き抜けにして,こう動いていくとみんなの動きが撮れて,美しい風景も抜けてっていうような一つのポイントってありますよね.美術部的にこれが売りっていう.そのポジションにカメラが入った時っていうのは,一番面白いですね」事実,李相日監督『フラガール』(2006)では,60年代の炭鉱住宅の中の広場にある小さな事務所をガラス張りにすることで,作り込んだ室内と家並み,内と外,両方のアクションが撮影できるセットをデザイナー種田陽平氏とともに提案.見事,アイディアが採用された.

『やじきた道中 てれすこ』オープンセット『やじきた道中 てれすこ』オープンセット

左:十返舎一九の「東海道中膝栗毛」を原作にしたコメディー時代劇,『やじきた道中 てれすこ』(平山秀幸監督,2007年秋全国ロードショー予定)の野外セット 右:時代劇ならではの素材を使い,古びた感じを出す

経験が問われるプラスαの発想

独学で建築的な知識を身につけ,「まだまだ勉強したい」という思いから,さまざまな時代背景の作品に挑む鈴村さん.最新作は1800年代初頭の時代劇.資料収集や時代考証を踏まえた上で,「この時代にこれがあったかどうか,に終始するだけではもったいない.それだけではなくて,ここにこれを置いたら絵がより活きるのではないか,というアイディアをぶつける.その決断が大事かなって思います.そこが一番楽しいとこじゃないかなと」プラスアルファの発想は,映画のセットだけを研究しても浮かんでこないだろう.「映画をやるにあたっても,美術をやるにあたっても,映画という仕事とは関係ないところで何をしてきたかってことが一番大事かなと思って.それの幅が広い分だけ,仕事に幅ができるというか」もともと漫画家志望だった鈴村さんが藝大に入学したのも,「人に会って,物を見て,それで自分の漫画人生に(笑)足しにしたいなっていうのがあった」から.「何かに特化して,とても優れた感性の人たちが一杯いる」,その価値がある場としての藝大でしっかり学んで,美術に来ては,とは後輩へのアドヴァイスだ.

『やじきた道中 てれすこ』オープンセット『やじきた道中 てれすこ』オープンセット

左:撮影機材の配置や動線を考慮することもセット・デザインには不可欠 右:時代考証を踏まえた上で,現代の観客にアピールするように工夫された内装

「ベニヤ一枚」の奥深さ

「映画セットというのは所詮ベニヤ一枚のことだ」とある美術監督は言ったことがあるそうだ.たかがベニヤ,されどベニヤ—「テレビや映画で見るように,いわゆる美術さんってトンカントンカンやって,っていうよりは,すごく奥が深いと思うんですよね.私は今,初めて8年か9年くらい経つんですけど,いつもやるたびに,『あ,楽しい仕事だな』と毎回必ず思うんですよね.初めて10年くらい経ってもそう思える仕事っていうのは,やっぱり自分に向いていて,楽しいな,と」「まったくの背景としての美術」が共同作業の中で,物語や俳優の演技と一体になって変化し,ひとつの映画作品になる.そんな美術の奥深さを,鈴村さんは満喫しているのかもしれない.